とりあえず書きます

とりあえず読んだもの、観たもの、聞いたもの、食べたものなどについて書いていきます。とりあえず書いて書き直されることもあるでしょう。

【読書】いくつか

2019年になったので最近読んだものをいくつか

■ 残雪『黄泥街』白水Uブックス

黄泥街 (白水Uブックス)

黄泥街 (白水Uブックス)

 

 現代中国を代表する作家残雪の第一長編。どこかにあったという黄泥街。そこでは、、ぐちゃぐちゃぬちゃぬちゃと灰と汚物と蟲が街を覆いつくし、人々の言葉はかみ合わない。強烈なイメージと言葉が正確な意味を失っていく、呼んでも読んでも読者も作中のすべてもがわからなさに取り込まれていく。そこにすべてを明確にし、判断し、批判した文化大革命(著者の父は「右派」として追放されている)を見ることもできるだろうし、さらに根本的な「言葉」そのものへの追及を見ることもできるだろう。

巻末についている訳者近藤直子の詳細な読解を読むと、ある程度の見取り図をもって作品にあたることができる。「わからないこと」という切り口で、不明瞭な本作に分け入るヒントをあたえてくれる。もちろん、それがすべてでないことはお書きになった本人が一番感じていることだろう。そういう小説だ。

個人的には、汚物と蟲の描写の連続に心ひかれた。とにかく登場人物は糞を垂れるし、ゴキブリや蜥蜴や蛇や蝙蝠や鼠やナメクジや、といったまさに「蟲」があらゆるところを覆いつくす。ただ、気持ち悪さよりも異様な美しさのような圧倒的な異物感を感じたのだった。それがなんなのかは、まだわからないけど。

「私」が黄泥街を探すところからはじまり、「蛇」の夢として語り始められる本作で、これらの蟲は作品の様々な部分でイメージとして物語をつないでいたように思う。時に人が、蜥蜴に、蝙蝠につなげられていく。そのイメージの変転の妙もまた本作の魅力だったように思う。

 

■ 中原淳『働く大人のための「学び」の教科書』かんき出版

 

働く大人のための「学び」の教科書

働く大人のための「学び」の教科書

 

 現在立教大学経営学部教授の中原淳による一般向け著書。
「働く人」のために「働く大人」であり続けるための学びのメソッドについて。著者が多くの「学んでいる人」から引き出した3つの原理原則(背伸び、振り返り、つながり)と7つの行動(タフな仕事から学ぶ、本を1トン読む、人から教えられて学ぶ、越境する、フィードバックをとりに行く、場を作る、教えてみる)というのは、今自身の周りで「学んでいる人」の行動に合わせても納得できる。

業務の関係の人と勉強会的なことを企画することが結構あるけれども、そのステップやそのなかでリーダー的な人たちの行動は原理原則と行動に沿っていると思う。

個人的にポイントだと思うのは、「場を作ること」「教えてみること」。実際に動き出して、他人を巻き込んでいくことから、「学び」が生まれるということだが、これは本当に実感として感じるのである。単に知識を習得するだけであれば、場を作る必要はあまりない。勉強会を開かなくても、今は参考書も、ウェブの教材も充実している。(むしろ知識を得るだけだならそっちが効率いいかも)ただ、人が集まり、交流することで、知識を得ることだけではない、「アイデア」(というのが適切かはわからないけど)が生まれるのだ、これは、身体的な接近、レスポンスの感覚からの刺激というのかなあと。

と、今の乏しい自分の経験からの言語化なのであるが、そう実感できるのだ。その場で「教えてみる」という方法論はさらに有効である。自分からその場で発信することで、自分に刺激があつまり、そこで、さらに活性化するそれを場にいるメンバーに共有していくことで、さらなる「学び」が生まれるのではないかというのが、いま自分が働きながら学ぼうとしているものとしての実感だ。

 

■ 西谷格『ルポ 中国「潜入バイト」日記』小学館新書

ルポ 中国「潜入バイト」日記 (小学館新書)

ルポ 中国「潜入バイト」日記 (小学館新書)

 

 上海の寿司屋、反日ドラマのエキストラ、パクリ遊園地のキャスト、婚活バーティ、高級ホストクラブ、爆買いツアーガイド、留学生寮管理人。と著者がとりあえず、飛び込んだ現代中国の様々な現場。まず、一つ一つの現場とそこにいる人たちの強烈さが印象的だ。そこから見えてくる、中国の流動性の高い社会やだからこそなのかの「身内」という意識など、著者の実感を感じられるルポ。著者の戸惑いと、納得感の間が面白い。

本書全体を通じて感じられるのが、中国社会の流動性(雇用だけでなく様々な関係が)とそのなかでおそらく強力に作用する「身内」という感覚なのだが、これは現代の中国を考えるうえで理解しておく必要がある要素ではないかと感じた。